whx22 潮位の副振动
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2.2 潮位の副振動
九州から薩南諸島は、潮位の副振動が頻繁に
発生する地域である。
副振動は数分から数十分程度の周期で海面が上下するもので、振幅が大きくなると低地での浸水、船舶の係留索が切れる被害、漁船の転覆被害などが発生することがある。
ここでは、その特性、長期的な変化、発生原因などを解説する。
(1)副振動とは
副振動とは、潮位にみられる周期が数分から数十分程度の振動現象で、奥行きのある港湾や海峡などでは振幅が非常に大きくなることがある。
九州西岸は、長崎の「あびき」に代表されるように、大きな副振動が頻繁に発生する地域である。
1979年3月31日に起こった副振動は、長崎検潮所で最大全振幅が278cm に達し(図2.2.1)、長崎港周辺や五島列島では、低地の浸水害をはじめ、係留した船舶の流失、沿岸施設の破損、漁船の転覆被害などが発生した。
また、2004年3月1日に発生した副振動は、枕崎検潮所で最大全振幅が160cm に達し、枕崎港や甑島では船舶の係留索が切れる被害や漁船の転覆被害などが発生した。
図 2.2.1 長崎検潮所で観測された過去最大
の副振動(1979年3月31日)
(2)九州・山口県・沖縄の副振動の特性 図2.2.2に副振動の調査対象とした潮位観測地点を、表2.2.1
に各地点の統計開始年と副振動の回数(統計開始年から2007年12月までの各年第1位(各年最大12デ-タ)の平均値を求め、全データのうちその平均値を超えた回数)を示す。
また、各地点において副振動の大きかった順に、第1位から第5位までについて、最大全振幅、周期、起時、継続時間および気象状況をまとめたものを表2.2.2に示す。
九州から南西諸島に設置されている24か所の潮位観測地点の副振動を調査したところ、長崎、枕崎以外でも下関、油津、大泊、西之表、種子島、中之島、名瀬、奄美で最大全振幅が100cm を超えるような副振動が発生していることが判明した(志賀ほか,2006)。
図2.2.2 調査対象地点
表2.2.1 各地点の統計開始年と副振動の回数、年平均回数
(注:年平均回数は欠測期間等を考慮していない)
注:起時は最大全振幅の観測時刻を示すが、括弧付きは副振動の開始時刻を示す。
最大全振幅、継続時間の括弧付きは欠測等が含まれることを示す。
ハイフンは欠測等による不明を示す。
継続
時間は全振幅が継続して一定値を超えた期間などから求めたもの。
他方、瀬戸内海に面した大分や有明海に面した大浦、口之津、三角では、台風に伴うものを除けば最大全振幅が30cm以下で大きな副振動はほとんど発生していない。
同じ海域に面する観測地点では、副振動の周期や振幅はおおむね同じ特性を持つが、種子島、奄美大島のような島の東西に位置する観測地点では、副振動の周期や振幅が大きく異なっている。
これは、島の東側では台風が島の南海上や東海上を通過する際、台風から生ずる風、気圧の急変、波などから励起される海洋長波の影響が大きいこと、一方、島の西側では気圧の急変によって東シナ海で発生する海洋長波の影響が大きいことに起因する。
奄美大島では図 2.2.3に示すように同じ気象現象が原因で発生した副振動でも、東側に位置する奄美と西側に位置する名瀬の最大全振幅が、3倍近く異なることもある(志賀ほか,2006)。
図2.2.3 奄美と名瀬の最大全振幅の関係図
○印と●印は奄美で最大全振幅第1位から第5位の事例を表し、×印は名瀬で最大全振幅第1位から第5位の事例を表す。
なお、●印は台風が原因であることを示す。
データの期間は1999~2005年。
志賀ほか(2006)より。
(3)あびき
もともとは長崎湾で発生する顕著な副振動のことを「あびき」と言っていたが、現在は長崎に限らず、九州西岸で発生する同様な現象に対して慣用的に用いられるようになっている。
あびきの語源は早い流れのため魚網が流される「網引き」に由来すると言われている。
長崎湾のあびきは30~40分周期で海面が上下振動し、数日間継続する場合もある。
1961年以降、最大全振幅が200cm以上のあびきが2回、100cm以上が54回発生しており、1年に1回程度の割合で100cm以上のあびきが観測される。
長崎検潮所における100cm以上のあびきの月別発生率を図2.2.4に、80cm以上の発生回数を20cmごとに分類した経年変化を図2.2.5に示す。
100cm以上のあびきは冬から春に多く、特に3月は際立っており、全体の約50%を占めている。
また、80cm以上のあびきは1970年が最も多く、8回発生しているが、1999年以降発生回数が少なくなっている。
図2.2.4 長崎検潮所におけるあびきの月別発生率
データの期間は1961~2007年。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
1960196519701975198019851990199520002005
回
数
図2.2.5 長崎検潮所におけるあびきの発生回数の経年変化
(4)副振動の発生原因
九州~山口県や薩南諸島での副振動の発生原因は気象じょう乱などに伴う気圧の急変によるものと台風によるものに大別される。
気圧の急変は、前線や低気圧の通過などの気象じょう乱や上層で顕著な下降気流を伴った高気圧の張り出しが原因で東シナ海の海上に気圧波が発生し、これによって励起された海洋長波が伝播してくるため、副振動が発生する(赤松,1982; Hibiya et al.,1982)。
台風によるものは、台風から生ずる風、気圧の急変、波などから励起された海洋長波が伝播して副振動が発生する場合と暴風によって岸に強制的に吹き寄せられた海水が、台風の進行による風向きの急激な変化によって、吹き寄せから開放されて副振動が発生する場合がある(志賀ほか,2006)。
気圧の急変の影響が大きい3月と台風の影響が大きい9月に、大きな副振動が発生している。
長崎湾のあびきは、図2.2.6に示すように東シナ海大陸棚上で発生した気圧波(気圧の急変)が進む速度と、これによって励起された海洋長波の速度が近い場合に、海洋長波が増幅されながら伝播して湾内に侵入し、湾内での共鳴現象などによりさらに増幅するために、大きくなると考えられている(Hibiya et al.,1982)。
参考文献
赤松英雄,1982:長崎港のセイシュ(あびき).気象研究所研究報告, 33, 95-115.
Hibiya, N. and K. Kajiura,1982: Origin of the ABIKI phenomenon (a kind of seiche) in Nagasaki Bay.J. Oceanogr., 38, 172-182.
志賀達,市川真人,楠元健一,鈴木博樹,2006:九州から薩南諸島で発生する潮位の副振動の統計的調査.測候時報,74特別号,139-162.
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図2.2.6 副振動の発生原因の模式図。